坂の上クリニック症例集ー尋常性乾癬(その1)
尋常性乾癬(その1)
 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)といわれてもほとんどの方はご存じないと思います。乾癬は皮膚科ではあっさり「治りませんよ」といわれてしまうつらい病気です。炎症性角化症のひとつで、体や頭皮、四肢に鱗屑(りんせつ、フケのような皮膚の剥離物)を伴った境界鮮明な紅斑、丘疹が多発します。痒みはあることもあり、ないこともあります。原因は不明で、白人に多く(人口の1〜2%)、我が国では人口の0.02〜0.04%の発症率です。男女比は2:1で男性に多く、近年増加しています。治療法には局所療法にステロイド外用薬、ビタミンD3軟膏。全身療法にレチノイド内服、メソトレキセート内服、免疫抑制剤内服などがあります。しかし、いずれも効果は限定的、一時的です。
 以上が乾癬の概要です。説明を読んだだけでは病気の大変さはわからないでしょうが、厚く苔癬化した紅斑から銀白色の鱗屑がぽろぽろと落ちる様を一度ご覧になれば、その深刻さがよくわかると思います。乾癬は伝染する病気ではないのですが、患者さんは患部を人前にさらすのを嫌い、温泉や海水浴に行けない、半そでやスカートが着られないとよくおっしゃいます。乾癬にもいくつかのタイプがあり、ここでご紹介するのは、鱗屑が少なく、丘疹も目立たない、どちらかといえば類乾癬に近いタイプです。女性にはこうしたタイプが多いです。
 患者さんは30才台の女性です。約15年前から四肢に角化性の紅斑があり、5年前に皮膚科で尋常生乾癬の診断を受けました。治療は「デルモベート」(最強のステロイド外用薬)を処方されています。例のごとく皮膚科では"治らない"といわれたそうです。初診時、下腿部、大腿部、上腕部に角化した紅斑を複数認めました。痒みが少しあるとのことでした。下が初診時の下腿部の様子です。乾癬に特徴的なAuspitz現象(擦過部の出血)が見られます。
乾癬ー初診時
 柴胡桂枝湯と防已黄耆湯をエキス剤で処方しました。
乾癬ー1ヶ月後
 上は1ヵ月後の様子です。ステロイド外用薬では治った後に強い色素沈着が残るが、漢方薬では色素沈着なしに治るとのことでした。経過は良さそうなので同じ処方を継続していきました。
乾癬ー5ヶ月後
乾癬ー5ヶ月後
 上の2枚は初診時から約5ヵ月経過した時の様子です。まだ紅斑はあるものの、だいぶ薄くなりました。
乾癬ー14ヶ月後
乾癬ー14ヶ月後
 上の2枚は初診から約1年2ヵ月たった一番最近の写真です。下腿部の紅斑はもう跡形もなく消失しました。ここ3ヵ月は服薬していませんでしたので、正味の服薬期間は11ヵ月になります。乾癬は治らない病気といわれていますが、このように根気強く漢方治療をすれば治るものです。もちろん再発も多い病気ですので、これからも気をつけなければなりません。実際下腿部の上の方にごく小さな新しい病変がありました。それにしても、ちょうど入園式の季節、患者さんは念願のスカートがはけるようになったと何より喜んでいました。