坂の上クリニック症例集ー湿疹(その1)
湿疹(その1)
 湿疹は皮膚科では最もありふれた疾患ですが、意外に治りにくく、また治っても再発の多い皮膚科疾患でもあります。皮膚科で単純に治らないケースには、漢方治療を行う機会も多いです。
 患者さんは50才台半ばの男性です。5年程前から背中などに湿疹が出始め、貨幣状湿疹といわれ、おもに塗り薬で治療されてきました。時に自家感作性皮膚炎を起こし、セレスタミンという抗ヒスタミン薬とステロイドの合剤を1日1〜3錠服用していました。(自家感作性皮膚炎というのは、体内の細菌感染(病巣感染)や湿疹などが原因で、全身性に湿疹が拡がってしまう病態。抗ヒスタミン薬と抗生物質の内服、ステロイド剤の外用などを行うが、治療に難渋する場合も多い。)来院の半年程前からは消風散という漢方薬も服用しています。しかし、完治しないどころかむしろ悪化してきたため、平成17年の秋に当院を受診されました。
 初診時には背中に地図上の湿疹があり四肢にも小さな湿疹が点在していました。
湿疹1ー初診時
背中ー初診時
湿疹1ー初診時
下肢ー初診時
湿疹1ー初診時
背中ー拡大
 お血が原因になっているように思えたので、桂枝茯苓丸をエキス剤で処方したところ、2週間後には病変はかえって拡がってしまいました。最初に症状がかえって悪化することを、漢方では瞑眩(めんけん)といって、患者さんには「毒をまず出します」とか説明する漢方医も多いようですが、私は必ずしも瞑眩が多いとは思えず、むしろ漢方薬の選定間違い(誤治)がほとんどのような気がしています。
湿疹ー背中ー2週間後
背中ー2週間後
湿疹ー左上腕ー2週間後
左上腕ー2週間後
 どうも今の処方のままで良いとも思えず、しかし、間違いともいいきれず、結局白虎加人参湯を追加して様子を見ることにしました。ちなみにステロイド外用剤はいっさい使わず、塗り薬としては生薬系のアズノール軟膏だけを使っています。そして、下が4週間後の背中の様子です。うーん、湿疹の赤みはやや減ったものの、範囲はさらに拡大しています。ここにいたって、桂枝茯苓丸は中止し、白虎加人参湯と黄連解毒湯に切り替えました。
湿疹ー背中ー4週間後
背中ー4週間後
 下が桂枝茯苓丸から白虎加人参湯と黄連解毒湯に切り替えて2週間後(初診から6週間後)の背中の所見です。全体に赤みがとれ、湿疹の範囲も拡大していません。薬が合うと漢方治療でも意外なほど早く効果が出るものです。
湿疹ー背中ー6週間後
背中ー6週間後
 さらに2ヵ月経過後(初診から3ヵ月2週間後)の様子です。順調に発赤が軽くなり範囲も縮小してきました。
湿疹ー背中ー3ヵ月2週間後
背中ー3ヵ月2週間後
 同じ処方を継続してさらに1ヵ月後(初診から4ヵ月2週間後)になりますと。さしもの背中の色素沈着もすっかりとれ、皮膚も良い状態になっています。四肢など他の部位も湿疹があった事がわからない程に改善しています。
湿疹ー背中ー4ヵ月2週間後
背中ー4ヵ月2週間後
湿疹ー下腿ー4ヵ月2週間後
下腿ー4ヵ月2週間後
 現在初診から約10ヵ月が経過し、ほとんど新しい湿疹は出なくなっています。肌の状態がしっとりして良くなったと喜ばれています。一応今も念のために漢方薬を服用中です。下に現在の様子を最後に出しておきます。
湿疹ー背中ー10ヵ月後
背中ー10ヵ月後
 この方の場合、結果からみれば桂枝茯苓丸は余計だったようで、少し回り道をしてしまいました。しかし、漢方治療の場合、疾患と処方の対応が曖昧なところがあり、なかなか初めからストライクという訳にはいかないものです。ちなみに検査値ではIgEは正常、RASTも調べた範囲では正常範囲でした。唯一白血球のアレルギーの指標である好酸球が、初診時11.0%と高値(正常は5%以下)だったのが、4ヵ月後には3.1%と低下していました。