湿疹(その2)
患者さんは66才の男性です。来院する4ヵ月前から全身に湿疹が出現し、皮膚科からは貨幣状湿疹と自家感作性皮膚炎と診断され治療を受けてきました。しかし、はかばかしい改善が得られないため、インターネットで当院の事を知った子供さんに勧められて平成17年の7月に来院されました。
初診時には全身に湿疹が出ている上に、手掌と足底にも皮疹が見られ、貨幣状湿疹に掌蹠膿疱症も合併しているようでした。特筆すべきは検査所見で白血球数が14100あり、そのうち好酸球が37%も占めていたことです。IgEは273mg/dlとやや上昇はしていましたが、特異的アレルゲンでは陽性なものはありませんでした。何かのアレルギーはあるものの特定はできない状態でした。
胸腹部ー初診時
背部ー初診時
下肢ー初診時
大腿部ー初診時
手掌ー初診時
足底部
湿疹の程度が強くまた患者さんの治療意欲も十分あったので、漢方薬の煎じ薬治療を行いました。内容は白虎加人参湯加黄連(1.0g)山梔子(3.0g)黄柏(3.0g)但し人参(4.0g)石膏(48.0g)です。2週間後に再診したところ、服用開始して2日目から改善が見られたとのことでした。胸腹部、背部、下肢ともに発赤が軽減しています。
胸腹部ー2週間後
背部ー2週間後
下肢ー2週間後
5週間後には手掌、足底部、胸腹部、背部はかなり改善しましたが、脇腹に今までと異なる丘疹状の湿疹が出始めました。
手掌ー5週間後
足底部ー5週間後
脇腹ー5週間後
2ヶ月後になると手掌、足底部の湿疹の増悪はあったものの、体幹部、四肢の湿疹はかなり改善しました。
手掌ー2ヵ月後
胸腹部ー2ヵ月後
背部ー2ヵ月後
下肢ー2ヵ月後
その後、爪の変形(3ヶ月後)、全身に丘疹状の新たな湿疹の出現(5ヶ月後)などがありましたが、それらも一過性でおさまっていきました。血液検査の結果は2ヶ月後白血球数8600うち好酸球9.3%、4ヵ月後白血球数7700うち好酸球3.4%と正常化しました。そしてちょうど半年後の診察を最後に来院されなくなりました。
爪の変形ー3ヵ月後
腹部ー5ヵ月後
上肢ー5ヵ月後
最後に来られてから1年半経って、そういえばあの方どうしているかなとスタッフで噂が出た頃、ふらりと来院されました。良くなったところを見せに来たとの嬉しい言葉。確かに全身に出ていた湿疹はすっかりなくなっていました。爪の変形、掌蹠膿疱症も消失しています。最初に来られてからちょうど2年目でした。
胸腹部ー2年後
背部ー2年後
下肢ー2年後
全身性の湿疹に掌蹠膿疱症を合併した患者さんに半年間の漢方煎じ薬治療を行い完治した例です。この方は初診の時から非常に治療に積極的で多少の症状増悪があっても、漢方薬を疑う事無く飲み続けてくれ、遠方にあるにもかかわらずまめに通院してくれたのが治癒できた最大の要因だと思います。検査結果をみれば何らかの強いアレルギー反応がおき、皮膚病変の形で現れたのは確かです。漢方治療によって症状が改善するとともに検査結果も正常化していきました。併用薬剤としては痒みの強い時に抗ヒスタミン薬(アレロック)の内服と中等度の強さのステロイド軟膏(リンデロンVG)の塗布、手と足底には漢方の塗り薬である紫雲膏を使っています。漢方処方は途中でさらに黄耆5.0g、ヨクイニン16.0gを加えた時期がありましたが、それ以外は初めから最後まで変えていません。湿疹は一度出ると持続する傾向があります。病変が全身に拡がると患者さんの苦痛と不安は相当なものですが、根気よく漢方治療すればちゃんと治っていきます。
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