坂の上クリニック症例集ー地図状舌
掌蹠膿疱症(その1)
 掌蹠膿疱症は手掌と足蹠に紅斑を伴う小膿疱が出現し、落屑と亀裂を生じ、長期にわたって軽快・悪化を繰り返す難治性の疾患です。皮膚病変以外に骨関節炎(胸鎖関節が多い)を伴う事があります。原因は慢性扁桃腺炎、う歯などの病巣感染説、口腔内の金属アレルギー説などがありますが、よくわかっていません。治療は副腎皮質ステロイドやビタミンD3の外用が一般的です。病巣感染が疑われる時は扁桃腺摘出、金属アレルギーが疑われる時は原因金属の除去を行う場合もあります。関節痛を伴う場合には、非ステロイド系消炎鎮痛剤を内服します。
この例は関節炎を伴った掌蹠膿疱症の症例です。漢方薬とビオチンを併用して、強い関節炎の疼痛と、手掌と足蹠の病変が治りました。前置きが長くなりましたが、さっそくご紹介いたします。

 40歳代の女性が2年前に掌蹠膿疱症と診断され、1ヶ月前からは強い腰痛を生じて当院に来院されました。今までの治療はビオチン内服と、最も強いステロイドであるデルモベートの外用でした。 まず初診時の手掌と爪、足蹠の写真です。掌蹠膿疱症に多い爪の病変がありました。
掌蹠膿疱症ー初診時
掌蹠膿疱症ー初診時
掌蹠膿疱症ー初診時
治療は漢方薬の桂枝湯と防已黄耆湯のエキス剤をまず処方しました。煎じ薬では桂枝加黄耆湯を出すのですが、エキス剤にはありませんので、桂枝湯と防已黄耆湯の組み合わせで代用しています。一時的な皮疹の増悪と改善がありましたが、関節痛もあることから、6週間後から、ビオチン6.75g/日、ミヤBM6錠/日を追加しました。喫煙は来院2週間前から止めているとのことでしたが、再度喫煙しないよう指導を徹底しました。ビオチン治療をする場合は禁煙が重要です。
初診から約3ヶ月後の写真です。手掌の皮疹はやや改善していますが、爪の病変は悪化しています。
掌蹠膿疱症ー3ヶ月後
掌蹠膿疱症ー3ヶ月後
 服薬を続けて半年を過ぎる頃から関節痛、皮疹ともに改善していき、治療開始後1年2ヶ月たった現在は疼痛ままったくなく、皮疹もほとんど消失しています。念のため漢方とビオチンの服薬は継続しています。 1年2ヶ月後の写真。
掌蹠膿疱症ー1年2ヶ月後
掌蹠膿疱症ー1年2ヶ月後
掌蹠膿疱症ー1年2ヶ月後
 本例は関節炎が非常に強かったのが特徴です。あまりに強い疼痛のため患者自ら麻酔科を受診し、麻薬の処方を受けた事さえありました。しかし、さしもの強い関節痛もいつしか和らいでいきました。
この例ではビオチン治療を併用していますので、漢方が奏効したと単純にはいえません。しかし以前にビオチン治療は受けて効果がなかった事がありましたので、やはり漢方とビオチン両者の効果があったと考えます(当院では漢方のみで治療している例の方がずっと多いです)。