患者は約7年前から肝硬変のため4回の食道静脈瘤からの出血をくりかえしている54才の男性である。
当院に来院した時は肝性昏睡のため既に意識障害をきたし、下図のごとく腹水が大量に貯留した状態であった。以前からの患者本人の希望で漢方治療を求めて当院に搬送され入院治療を行うことになった。
輸液によって入院翌日には意識を回復し。経口摂取可能になったため漢方薬の内服治療を開始した。
初めに五苓散料の加味方を服用してもらったが尿量はたいして増加せず、腹水は増えていくばかりであった。そうこうするうちに入院後1ヶ月が過ぎ去り、患者本人も腹水を針で抜いて楽にしてほしいと訴えるまでになってしまった。
この時の状態は腹水ははちきれんばかりに貯まっているが、脈は沈んで細く、血圧も低下し、四肢には浮腫はない状態であった。そこで、茯苓四逆湯の加味方に変方することにした。
すると急速に尿量が増えていき、さしもの腹水も徐々に減少に転じていった。2ヶ月後の腹部の写真と、4年後の外来での腹部の写真を下に提示する。
腹水の治療薬としては茯苓四逆湯は異例の処方であるが、状態によってはこの例のように奏効することがある。