患者は34歳、女性。約15年前から手に断続的に皮疹が出ていて、近医皮膚科を通院していたが、完治しませんでした。約10年前に某大学病院東洋医学研究所を受診し、約7ヶ月間、漢方薬を服用した(因みにその時、処方された漢方薬は桂枝加竜骨牡蠣湯、甘草潟心湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、甲字湯、白虎加人参湯、抑肝散加陳皮半夏であり、いずれも3-7週間の投与期間でした)が、効果がみられず、その後は放置していました。約10ヶ月前、某大学病院の皮膚科を受診したが、改善せず、身体や肘窩や膝窩にも皮疹が出現するようになり、2001年(H13年)7月6日に来院しました。
身長158.3cm、体重60kg、血圧102/72、脈はやや沈・小・弱、腹侯は腹力中等度で、両腹直筋の撃急は軽度、臍傍の圧痛点なく、胸脇苦満やその他の所見はない。口渇はなく、発汗しやすく、目まいや立ちくらみはなし。初診時の皮膚所見として、皮膚はやや湿潤気味で白く、両手、両肘窩、右膝窩、および胸部と腹部と背部に皮疹が認められました(写真参照)。
甘いものは好きで、ケーキ、アイスクリーム、チョコレートなどは食べ、缶コーヒーも飲むが、ジュースや果物や餅米類などはあまり摂取しないとのこと。
全体像から判断して、陽証でやや実症であり、両手指の主婦湿疹以外の皮疹はアトピー性皮膚炎の皮疹と思われたので、まず、アトピー性皮膚炎を改善するため、基本薬方として白虎加人参湯(知母6g、人参4g、石膏48g、甘草2g、梗米9g)を処方し、「甘味づけ体質」を改善していくように指導しました。その後は、皮疹は日を追う毎に改善(約6週間後および18週間後の写真参照)してきて、初診時より約26週間後(写真参照)にほぼ完治と判断しました。
本症例は主婦湿疹とアトピー性皮膚炎の合併した例ですが、アトピー性皮膚炎を改善する白虎加人参湯の処方のみで、いずれも完治した症例です。主婦湿疹の場合は、桂苓丸料や当芍散料のような駆"お血"剤を使用して良い成果を得ていますが、本例のように合併した症例で、迷うときにはまず、アトピー性皮膚炎の改善を先にするとよいようです。漢方治療を求めてくる患者さんの多くは、はじめは各所の皮膚科めぐりをしてくることが多いようです。しかし、現代医学の考え方に基づいた皮膚疾患の治療は、ステロイド剤その他の塗り薬による局所治療であるため、根本的な体質改善は期待し難く、患者さんは不本意ながらも一時押さえの治療を続けていくか、諦めてしまうか、あるいは他医を求めてドクターショッピングをするというのが現状のようです。
東洋医学(漢方治療)は、全体治療を通じた体質改善を目指していますので、根本的な治療効果を与えることができるのですが、統一的な基礎理論のない前近代的な漢方治療(現代漢方の大半)では、例えば本症例の他医による漢方治療のように、行き当たりばったりに選定した処方を次々に変えていくような治療方法になりやすく、結局良好な効果を得られないということも起こり得ます。当院では、統一的な基礎理諭と成り得る「近代漢方」を提唱し(『近代漢方総論・各論・治療編』遠田裕政著医道の日本杜)、その実践を外来診療を通じて行い、良好な効果を得ております。