患者は20歳、男性。約6年前から顔に発疹が出始め、皮膚科でアトピー性皮膚炎として加療されてきましたが、良くなったり、悪くなったりの繰り返しでした。約2年前別の皮膚科にて非ステロイド剤での治療を受けてみたが、あまり変わらず、その他、漢方薬店で色々な薬を処方されてますます悪化してしまい、1997年(H9年)12月16日に当院に来院しました。
身長168cm、体重58kg、血圧152/80、睡眠は普通、食欲は良好。便通は1日に2〜3行、排尿回数は日中5回で夜間0回。口渇があり、よく水分をとり、発汗しやすく、顔がほてり、手足が冷えて、身体中の掻痒が著明でした。
脈候はやや浮・小・弱、舌候は乾いて薄い白苔あり。腹候は腹力中等度、胸脇苦満はなく、両腹直筋の攣急は高度、臍傍の圧痛点はなく、その他特別な所見はありませんでした。
初診時の皮膚所見としては乾湿中等度で、全身に発疹を認めていました。
顔面では小水泡が主体で、それが多数集中し或は散在しており、その上に赤色丘疹や紅斑が追加されているような病巣を形成している(写真参照)。同様の病巣が全身の各所にあるが、写真では右顔面の側面と左上肢外側面のみで経過を追いました。
「甘いもの」は好きで、アイスクリームや果物の他、餅やおかきなどもよく食べるとのことであった。
全体像から判断して、陽症で、実証であり、まず、アトピー性皮膚炎の治療に準じて、白虎加人参湯を基本薬方として選定し、黄蓮1gを追加した処方で経過観察しました。
初診時より1ヶ月半後(1998年1月27日)に来院した時には、上肢の方の皮疹の赤みは少なくなってきて、顔の皮疹も良くなってきていましたが、掻痒がまだあるというので、同一薬方に黄柏、山梔子、黄 各1gを追加した薬方にして経観したところ、皮疹はどんどん軽快していき、2月のはじめからステロイド(リンデロン)も使用していないし、皮膚科にも行っていないとのことでした。また、お菓子も果物も食べないように注意しているとのことでした。
初診時より約3ヶ月半後(1998年4月7日)に来院した時には、軽快していました(写真参照)が、痒みがまだ持続していました。同一薬方にて経観しました。
初診時より約4ヶ月半後(1998年6月30日)に来院した時には、小丘疹状のものがあらたに出てきました(写真割愛)ので、ヨク苡仁16gと大黄1gを追加した薬方を処方しました。
その後の経過としては、約7ヶ月と1週間後(1998年7月23日)および約8ヶ月半後(1998年9月3日)の状態は写真で見られる如きものでした。また、小水泡が出現してきましたので、思い切って桂枝茯苓丸料の加味方(加黄連2、黄柏1、山梔子1、黄ゴン1、ヨク苡仁16、大黄1)に転方し、以後、同様の薬方にて経観しました。
初診時より約1年4ヶ月後(1999年4月15日)に来院した時には、かなり良い状態になっていました(写真参照)ので、上記処方から黄柏、山梔子、黄ゴンを除いたものを処方し、しばらく経観しました。
初診時より約1年7ヶ月後(1999年7月8日)に来院した時には、また小水泡の出現を認めました(写真参照)が、同一薬方で経観したところ、その3ヶ月後(1999年10月21日)にはまた良くなってきました(写真参照)。以後も同一薬方で経観したところ、皮膚は良い状態でしたが、掻痒はまだありましたし、時に皮疹が出たりしていました。
初診時より約2年5ヶ月後(2001年5月24日)に来院した時には、皮疹は殆ど改善されている状態でしたので、廃約をすすめましたが、患者さんの希望で、その後も3ヶ月程同一薬方を服用しておりましたが、その後(2001年9月27日)再び皮疹が出現した(写真参照)ので、同一薬方のヨク苡仁を黄耆(5)に代えて、黄柏(2)を追加した薬方にして経観しました。その2ヶ月後(2001年11月22日)には皮疹はほぼ完治している状態でした(写真参照)が、腹候は腹力がやや軟となり、臍の上下で悸動が著明であり、全体としてやや「虚」してきた感じでしたので、同一薬方の桂苓丸料の部分を当帰芍薬散料に代えて様子をみることにしましたが、その後の具合は良かったようです。
本症例では、アトピー性皮膚炎をまずそれに見合った薬方で治し、その後出現している慢性湿疹を駆お血剤を基本薬方とした加味方で治療した症例ですが、途中で何度か再発をみています。本当にひどい慢性湿疹というものはこのように時間がかかるものです。