橘皮湯の加味方が奏効した慢性蕁麻疹
 患者は31歳、男性。以前から胃腸の調子が悪くなることはよくありました。1998年(H10年)5月頃、横腹と上腕に痒みを伴う湿疹が出来、近医(皮膚科)を受診したところ、蕁麻疹と診断されました。その後、幾つかの病院あるいは、某大学病院の皮膚科をそれぞれ3ヶ月以上通院して治療してました。しかし、ステロイド入りの薬剤(セレスタミン)を服用すると皮疹は2〜3日でおさまっているが、やめるとすぐ出てくるという状態であり、ステロイドの服用を出来るだけ早くやめたいということで、知人の紹介により、1999年(H11年)2月24日に当院に来院しました。
 身長175.5cm、体重71kg、血圧100/64、睡眠・食欲は普通。便通は1日に2行、排尿回数は日中3〜4回で夜間尿なし。口渇なく、汗はかきやすく、目まいや立ちくらみはない。手足が冷えやすく、顔はほてりやすい。肩や首の凝りは高度でありました。 脈候は浮・中・弱、舌候はやや乾で薄い白苔あり、腹候は腹力やや実で、胸脇苦満は中等度、両腹直筋の攣急は中等度、臍傍の圧痛点はありませんでした。
 初診時の皮膚所見としては乾湿中等度で、全身の各所に蕁麻疹の皮疹を認めていました(写真参照)。
 因に甘いものは大好きで、餅米類も大好きであり、肉類もよく摂取し、ジュースもよ飲むとのことでした。
 全体像から判断して、大柴胡湯を基本薬方として選定し、蕁麻疹の改善に良い橘皮を追加した薬方を処方しました。
 初診時より約2週間後(1999年3月10日)に来院した時には、皮疹はかえって増悪しているように思われました(写真参照)。大黄を1日2g使用したら下痢が大分続いたようなので、これを1日1gにした同一薬方にて経過観察しました。
 初診時より約4週間後(1999年3月24日)に来院した時には、盛り上がりの大きな皮疹はなくなったが、毎日、皮疹はどこかに出ているとのことでした。また、セレスタミンも服用していたとのことです。そこで、思い切って橘皮大黄朴硝湯(橘皮10、大黄2、芒硝2)に転方してみました。
 初診時より約6週間後(1999年4月7日)に来院した時には、少しは蕁麻疹の出は軽くなってきたようですが、1日4〜5行の便通があったようでしたので、大黄1g、
芒硝1g、に減量して処方しました。
 初診時より約8週間後(1999年4月21日)に来院した時には、皮疹は大分ましになってきましたが、まだ時々出るとのことでした。便通は1日4行でした。同一薬方にて経過観察しました。
 初診時より約11週間後(1999年5月12日)に来院した時には、皮疹は少なくなってはいるのですが、まだ、かなり出ていました(写真参照)。便通は1日3〜4行でした。そこで、また転方することにしました。すなわち、橘皮湯を基本薬方に選定して、半夏、茯苓、甘草を追加した薬方にしたわけです。以後、ずっとこれを持重していったところ、以下の写真(初診時より約1年後、約1年1ヶ月後、約1年2ヶ月後、約1年3ヶ月後、約1年5ヶ月後、約1年6ヶ月後、約1年10ヶ月後、約2年後)に示すごとく皮疹は改善していきました。その後、皮膚も胃腸も良い状態が続いているようでした。
 初診時より約2年5ヶ月後(2001年7月27日)に来院した時には、どこにも皮疹は出ていませんでしたが、同一薬方を1ヶ月分持っていき、以後来院していません。
 蕁麻疹に対しての皮膚科の治療としては、一時抑えのものは、ステロイドを初めとして様々なものがあるわけですが、体質を改善して皮疹が出なくなるような治療法はないようです。従って、慢性的に蕁麻疹が出るような患者としては大変困るわけですし、ステロイドの長期服用に伴う副作用というものを考えれば、出来るだけこういう薬は避けたいと思うのも当然のことです。
 急性の蕁麻疹の時は橘皮を十分に使用しながら大いに下す薬方で胃腸管をきれいにしていくようにし、慢性的な蕁麻疹の場合は胃腸を良くしていく薬方に橘皮を大いに使用していくと良いようです。いずれにしても蕁麻疹に対しては橘皮を十分に使用するようにしています。食餌の関連で蕁麻疹が起きてくる場合で体力が十分にある時にはよく橘皮大黄朴硝湯を使用して、胃腸管内の何かある悪いものを下してしまうようなことをすると良いようです。慢性の場合は体質改善の薬方として桂苓丸料あるいは桂苓丸料加大黄に橘皮を追加するなどの薬方もよく使用しています。
 本症例の場合は、はじめは、どちらかというと下す方向で、治療していましたが、改善度合いが今一つでしたので、2回ほど転方し、最終的には、橘皮湯に半夏、茯苓、甘草を追加し、二陳湯の形式にして、さらに橘皮を2倍以上にしたわけです。すなわち、胃腸管を良くしながら橘皮の作用を期待してみたわけです。
 慢性蕁麻疹で困っている方々の少しでも役に立つようにここに報告いたします。

前額部 胸腹部 腹部 左側胸腹部 左前腕内側部
初診時

(1999.02.24)

前額部 右肘窩部 左肘窩部 臍周囲 右側胸腹部
約2週間後

(1999.03.10)

約11週間後

(1999.05.12)

約1年後

(2000.02.16)

約1年1ヶ月後

(2000.03.29)

約1年2ヶ月後

(2000.04.27)

約1年3ヶ月後

(2000.05.31)

約1年5ヶ月後

(2000.07.19)

約1年6ヶ月後

(2000.08.30)

約1年10ヶ月後

(2000.12.06)

前額部 臍周囲
約2年後

(2001.02.02)